闇屋に出くわす≪九月八日≫ -爾-ここのレストランに来る途中、細い路地で闇屋に出合った。 闇屋 「ちょっと兄さん、US$は持ってないかい?」 そう言いながら、Rs.の札束を見せてくる。 俺 「レートはいくらだい?」 レートを聞くと、”ちょっとこっちへ来い!”と言う様に、俺の袖を 引っ張りながら路地裏へ連れて行く。 誰にも見られないところでこっちを振り向きながら言った。 闇屋 「レートは、1US$40Rsでどうだ。」 空港の両替所で交換した時が、1US$≒12.5Rsだったことを思うと、 3.2倍のレートであるからこんな良い事はない。 それとも、裏を返せば銀行のレートが安すぎて、銀行が儲けすぎてい るという事だろう。 これは当然考えられそうなことだ。 しかし、こんな良い条件も断らざるを得ない・・・・・とは、 なんとも口惜しい事ではないか。 と言うのも、俺はすでに20US$(250Rs)も手にしてしまったからだ。 こんなに物価が安い国で、一ヶ月も滞在するなら別の話であるが、一 週間の滞在しか予定していないのだから、これでまた両替しようものな ら、Rsを使い切れず、使えないお金を持つだけになる。 後45日のうちに、ヨーロッパへ到着しなくてはならない。 そこまでには、インド・パキスタン・アフガニスタン・イラン、そし てトルコと、今の俺にとっては、得たいの知れない怪物が口を開けて待っ ていると思うと、こんな居心地の良い国でポケーッ!としている訳にはい かないのだ。 タイでのんびりした報いだろうか、なんとも嬉しくないレートを聞い てしまった。 * ネパールの人達。 カトマンズの人達。 彼らには優しさがある。 親切がにじみ出て来る人達だ。 これで言葉が通じたら、こんなに旅人達を癒してくれる街は、もう他 にはないだろうと思われるほどだ。 街の中を走っている車は、ちょっと古いが日本のカローラが多い。 自転車は全てと言っていいほど中国製。 そして、なんと貸し自転車屋が多い事か。 という事は、レンタサイクルで廻れるほど、小さな首都カトマンズと いう事なのだろう。 歩いている人は、インド系。 そんな中に日本人旅行者もかな り目に付く。 こんな小さな街だけでも、20~30人は居そうだ。 もっと居るかも知れない。 と言うのも、この街はエベレストへ登山する日本人達の基地となるか らだ。 カトマンズに到着してすぐ泊まった宿も、慶応だの早稲田だのの登山 部の旗が飾られていた事を思い出した。 今日も天候が良くないのか、一切頂上の見えないエベレストを目指し て登っている日本のパーティーがいくつかあるかも知れない。 しかし残念ながら、厚い雲がエベレストの麓近くまで降りてきて、 世界一の屋根が全く見えないのである。 ここカトマンズでも、エベレストの頂上が見えるのは一年のうちほん の数日しかないという事らしい。 そんな幸運が、ここに滞在している間に訪れるだろうか。 まずないだろう。 * 帰る途中、広場近くの店を覗きながら歩いた。 指輪を二つほど購入した。 昨日は、ネパールの生神様と国王の パレード(年に一度)があったせいか、今日の昼間もすごい人出でパレー ドの余韻が、日の暮れた今でも伝わってくる。 ネパールの夜は涼しいと言うより、寒くさえ感じる。 部屋に戻って、チェンマイのデーンに手紙を書いたり、日記をつけた り・・・本当に静かな夜だ。 部屋を出て、ローカの突当たりにシャ ワールームがある。 なんとも狭い。 隣には誰か居るのか? この宿に、どんな人が、何人泊まっているのか、まるでわからない。 五階からの眺めは実に素晴らしい。 とはいっても、ネオンらしいネオンはない。 各個人の家の灯りが続いているのが見えるだけ。 そんな光景をボンヤリと眺めていると、一人の日本の老人が言ってい た事を思い出した。 ”アジアってのは、どうしてこうも貧しいのだろうかねー!” ネパールから中近東にかけて、その想いはいっそう強くなる。 日本を想うと・・・・日本も例外ではないような気がする。 経済的な貧しさは克服してきたけれど、心の貧しさは強くなる一方で はないか。 神は人をどのように創ったのだろうか。 神は人が自分に近づいてくる事を恐れ、人は人で神ではないという思 想のもとに人を創造したのであろうか。 俺は神を信じないが、もし神が居るとしたらそうとしか思えないの だ。 そんなことを思いながら、久しぶりにシュラフを取り出し・・・・ (香港以来だろうか?)・・・小さなベッドの上へ広げた。 もう一方のベッドに荷物を置いて、ドアに鍵をかけ・・・・・・・・ ジッと天井を見る。 ジャンル別一覧
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